赤外分光法(IR)
赤外分光法(IR)は、物質の化学構造を解析するために赤外線を利用する分析技術です。
赤外線が分子の振動を引き起こし、その吸収スペクトルを解析することで物質の特性を明らかにします。
赤外分光法の基本原理
赤外分光法(Infrared Spectroscopy, IR)は、赤外線を物質に照射し、その吸収特性を測定することで化学構造を解析する技術です。物質が特定の波長の赤外線を吸収すると、その物質の分子はエネルギーを受け取り、振動や回転を始めます。これは、赤外線が分子の中の特定の化学結合に対応するエネルギーを持っているからです。この振動や回転のパターンは、赤外線がどの波長でどれだけ吸収されたかを示す「吸収スペクトル」として記録されます。この吸収スペクトルを分析することで、物質の化学構造や成分を特定することができます。
赤外分光法のプロセス
赤外分光法は、以下のプロセスを経て物質の特性を解析します:
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赤外線の照射
- 赤外線を試料に照射します。赤外線の波長範囲は通常、2.5〜25ミクロン(4000〜400 cm-1)です。 吸収
- 試料中の分子が特定の波長の赤外線を吸収し、振動エネルギーの増加を引き起こします。各化学結合は特有の吸収波長を持ちます。 スペクトルの取得
- 吸収された赤外線のスペクトルを測定し、吸収強度と波数(波長の逆数)の関係を記録します。これが赤外吸収スペクトルです。 解析
- 得られたスペクトルを解析し、特定の吸収帯から化学結合の種類や分子構造を推定します。
赤外分光法の種類
赤外分光法には、主に以下の種類があります:
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フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)
- 干渉計を使用して、全波長範囲の赤外スペクトルを同時に測定します。高感度で高精度なスペクトルを得ることができます。 分散型赤外分光法
- 回折格子を使用して、特定の波長の赤外線を選択的に測定します。主に古典的な方法として使用されます。 近赤外分光法(NIR)
- 近赤外領域(0.78〜2.5ミクロン)の光を使用して、主に有機物の定量分析に利用されます。 中赤外分光法(MIR)
- 中赤外領域(2.5〜25ミクロン)の光を使用して、化学結合の詳細な解析に適しています。
赤外分光法の利点と限界
赤外分光法には、いくつかの利点と限界があります。
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利点
- 非破壊的な分析が可能:試料を破壊せずに分析できます。
- 迅速な測定:短時間でスペクトルを取得できます。
- 高感度:微量な物質の検出が可能です。
- 多用途:有機物、無機物、生体分子など、さまざまな試料の分析に適しています。 限界
- 試料の前処理が必要な場合がある:特に固体試料の場合、適切な前処理が求められます。
- 定性分析が中心:定量分析には限界があります。
- 水分の影響:赤外線は水によって強く吸収されるため、水分の影響を受けやすいです。
赤外分光法の装置構成
赤外分光法の装置は、以下の主要な構成要素から成り立っています:
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光源
- 赤外線を発生させるための光源。通常、黒体放射源やレーザーが使用されます。 干渉計または分散装置
- 赤外線を分光するための装置。FT-IRでは干渉計、分散型では回折格子が使用されます。 試料室
- 試料を設置する場所。透過法、反射法、ATR法(全反射減衰法)など、さまざまな測定モードがあります。 検出器
- 吸収された赤外線を検出する装置。熱電検出器や光検出器が使用されます。 データ処理装置
- 検出された信号を処理し、スペクトルとして表示するコンピュータシステム。
赤外分光法の測定モード
赤外分光法には、試料の状態や目的に応じていくつかの測定モードがあります:
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透過法
- 赤外線が試料を通過する際の吸収を測定します。液体や薄膜試料に適しています。 反射法
- 赤外線が試料表面で反射する際の吸収を測定します。固体試料や表面解析に適しています。 ATR法(全反射減衰法)
- 赤外線が高屈折率のプリズムを通過し、試料表面で全反射する際の吸収を測定します。試料の前処理が不要で、液体、固体、ペースト状の試料に適しています。